テーマは最初から存在していない

物語は言葉で書かれるものなので、言葉が最初に浮かんでくることが始まりではないかと思われますが、言葉が浮かんでくるわけではなく、言葉になる以前の段階のものが、まず浮かんでこなければ、言葉にはならないのです。言葉は常に後から遅れてやってくるという感触です。

何をテーマにして物語を書こうかということに、書き手自身はあまりこだわってはいないのではないでしょうか?テーマからスタートしてしまうと、たぶんうまくいかないのではないかと思います。

言葉で表現しようとして挑戦し続けている

家族の悲しみを書こうとか、人間の孤独を書こうとか、家族の絆について書こうなど、非常にわかりやすい一行で書けてしまう主題を最初に意識してしまったら、物語にならない。言葉で一行で表現できてしまうならば、別に物語にする必要はない。矛盾してしまいますが、言葉に出来ないものを書いているのが物語や小説ではないかと思うのです。一行で表現できないからこそ、人は100枚も200枚も物語を書いてしまうのはないでしょうか。

本当に悲しい時は、言葉に出来ないくらい悲しいと言います。ですので、物語の中で「悲しい」と書いてしまうと、本当の悲しみは描ききれない。言葉が壁になって、その先に心を羽ばたかせることができなくなるのです。

人間が悲しい時に、心の中がどうなっているかということは、本当は言葉では表現できないもの。けれども、それを物語という器を使って言葉で表現しようとして挑戦し続けているのが小説であり物語であるのです。

テーマとストーリー

「テーマさえしっかりしていれば、いい物語が書ける」というのは幻想です。

テーマは後から読んだ人が勝手にそれぞれ感じたり、文芸評論家の方が論じてくださるものであって、自ら書いた本人が掲げ持つようなものではないのではないでしょうか。

ストーリーに関しても、テーマと同じように、最初から決まっているわけではないのです。

ストーリーも自然に浮かび上がってくるものです。むしろ、自分が書こうとしている、まだ書かれていない物語が、すでにストーリーを持っているわけです。ストーリーは作家が考えるものではなくて、実は既にあって、それを逃さないようにキャッチするのが作家の役目ではないでしょうか。すでに物語を持っているストーリーを逃さず受け止めようとする姿勢が必要です。

出典「物語の役割」